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2015年4月 9日 (木)

『メギツネ』考 4

 BABYMETALに関心を抱き始めた時、菊地最愛と水野由結に何か既視感を覚えたのは、イチローと共演したCMの印象があったからだ、という事に気づいたのは結構経ってからの事だった。

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 BABYMETALの3人のプロポーションが一番ドラスティックに変わったのは、昨2014年3月の武道館後だという気がする。
 ワールドツアーを経て夏のSonispherでは、SU-METALの体格はしっかりとしており、YUIMETALとMOAMETALの身長も伸びていた。

 初期の「天使の様な」小さくて愛らしくキレキレな踊りをする2人では最早なくなっているのだが、天使の様な笑顔は決して失われておらず、真剣な振付けでは年齢相応な経験値とスキルを備えた強い存在になっている事を顕示していた。

 初期の3人のギャップを愛した人の中には、かつての様なバランスが見られなくなった事を惜しむ人もいたかもしれない。しかし私を含めた比較的新規のファンには理想的に成長してくれたと思う人が殆どだろう。

 やはり初期の、既に中学生になっているとは言え小さな少女だった彼女達を、ファンであると広言する事には抵抗を覚える人もいた筈だ。
 初期の小柄な体躯でのパフォーマンスも、キッズのレベルなどではなく既に完成度は高いものになっていたのだが、しかし昨年以降からのパフォーマンスは体格と比例して格段に成長した事が誰の目にも明らかである。

 以前埋め込んだ動画、NHK「MJ」出演時のパフォーマンスと、Sonispherでのパフォーマンスを見比べてしまうと、やはり圧倒的に彼女達のパフォーマンスは別物とも言える程に差がある。
 MVでは既に、要求された動きは完遂出来てはいるのだが、実際のステージで再現するのはまた別の問題となる。


 このプログラムのYUIMETAL+MOAMETALの振付けは、漫然と見ていると幻惑されてしまう。
 Bメロでは座り込んで女性らしい仕種を見せ、そこからの各部の振りは極めて細かくセグメントされており、ほぼ1小節毎くらいにポーズを決める。
 このポーズ決めのポイントが単純な4拍目とか小節頭には殆ど無く、3拍目で跳んだり、4拍裏に決めたりと実に難解なリズム割りとなっているのだ。
 大きな動作と素早い動作、緩急は変幻自在である。
 歌物のダンスは基本的にリズム・ビートを体現するものだが、MIKIKO-METALによる振付けは歌メロに沿ったり、完全にリズム・ビートとも歌メロとも異なるリズムで刻まれる。
 しかも恐ろしい事に、多くの場面でYUIMETALは歌を口ずさみながら実行しているのだ。

 振付けに着目して見ようとすると、どうしても正確無比なYUIMETALを注視してしまう。
 素早いムーヴメント、決めたポーズの正確さと静止、どれもが完璧なのだ。
 MIKIKO-METALは彼女について、ヒップホップでもない独特なダンサーだと表現していた。どんなダンスだってYUIMETALならばこなしてしまうのだろうが、MIKIKO-METALの振付けに特化した、まさにMIKIKOコリオグラフィを具象化した存在であるのかもしれない。

 MOAMETALは比較的正確さは欠くものの、大きなモーションには予動をつけたり独自なアレンジをしていて、また面白いパフォーマンスである。3人、2人で揃えるところはきっちり外さず、煽りパートになると一瞬で火がついて激情的なアクションを見せる、といった切り替えは3人でも随一だ。

 SU-METALは、やはりヴォーカルがあるので動きは控えめだが、「ソレソレソレソレ」ではやはり彼女らしい全身バネの様な動きを見せる。


 このプログラムはそれ自体独立性を持った構成だ。
 冒頭、ライヴ版ではSU-METALのプリ・レコーディングされた「きーつねー、きーつねー」という、レトロな加工された歌声に合せ、3人がしずしずと舞台中央で開始フォーメーションに入る。
「じょーゆうよー」に合せ面被りのポージングに入るのだが、そこまでたった3拍の動きだけで、もう完全にプログラムの世界を作り上げてしまう。

 イントロ前半、YUIMETALとMOAMETALは「キツネ振り」のポーズを幾つか繰り返す。そして「ソレ!」に入る直前の小節3拍目で3人が跳び、4拍目で不思議なポーズで着地する。
 左掌で顔を隠し、首を傾けたままジャンプするのだ。最初は水に潜る様な仕種に見えたのだが、そうではなくこれはキツネが何かに変身する描写なのではないかと思う様になった。

 そう、「乙女」になるのだ。

 ここに顕著なのだが、彼女達は音に合わせて動いてはいない。
 普通は音が鳴ったところで動く筈だが、ジャンプの様に一旦飛び上がったら、着地するまでの時間は制御出来ずビートに遅れる可能性がある。したがって2拍目の裏には既に跳び始めており、ビートが鳴った時に跳躍した頂点に合って見えるのだ。
 着地した次の拍からはもうリフに合せた「ソレ!」という激しい振りに入る。
 イントロだけでこの情報量である。

 YUIMETAL+MOAMETALは昨年より、「ソレ!」「コンコンコンココン」も全て生歌で歌っている。激しい振りに合せてなので、一層切迫感が高まる。

 

「さくらダブ・ステップ」では、SU-METALが一度後方に下がり、紙の狐面を手に現れるという時代劇の様な演出がある。これもなかなか映像ではSU-METALの面越しの流し目を捉えたものが見つけられずに不満を抱くのだが。
 昨年のHeavy Montrealでは、投げ捨てた面が強風に押し戻され、MOAMETALの顔面を直撃するアクシデントがあったのだが、MOAMETALは平然と振りを貫徹し、座るパートの時に素早く面を払いのけるという極めてプロフェッショナルな手際を見せて内外のファンに感銘を与えた。 
※MOAMETALがステージ袖で座り込んでいる写真はSonispherではなくHeavy Montrealの時のものだった。コメントで指摘を戴いていたが訂正が遅れてしまった。お詫びして訂正をします。

 エンディングは再び激しい祭りのアクションから面被りのポーズに戻っていくのだが、SU-METALと2人が時間差で表裏を入れ替わり、何度観てもうなり声を上げてしまうくらいにビシッと決める。

 音が鳴り止んでも3人はそのポーズを保ったままで静止している。
 屋内のライヴであれば照明を暗転させられるので、そういう振付けになっているのだろうが、野外のフェスであると次のプログラムの音がなるまでそのポーズのまま待たねばならないのだろう。観衆が熱狂しているのに、ステージ上で静止し続ける3人の姿は神々しいばかりだ。

 SU-METALにとってライヴで歌う中ではこの曲が一番難しい様だ。
 確かにBメロ以降は高い音域ばかりで、ブレス箇所が極端に少なく、しかも歌メロは微妙な音域でのレガートが連続する。
 ライヴによってはやはりSU-METALのヴォーカルが巧くいかない場合がある。
 ただ、これは彼女の問題だけではない気がしてならない。神バンドの演奏パートは変え様がないが、同期させるプリ・レコーディング音源の方で、もっと歌い易いアレンジをする事は可能な気がする。ハモりをもっと下げるくらいなら現場のミキシングでも操作出来ると思う。まあこれは部外者の余計な戯れ言であるが。

 その面でもやはりSonispherでのパフォーマンスは見事だった。
 SU-METALのヴォーカルはほぼ完璧に近く、YUIMETAL+MOAMETALの動きのキレも、私が見た中では最高のものだった。


『メギツネ』の振付けは、BABYMETALだけしか出来ない特別なものであるのは当然として、ある一つの頂点だと言える気がしている。
 シンプルに音楽に乗せて身体を動かすところなど一瞬もなく、寧ろ音に先行して動作を開始させ、まるで音楽を牽引する様な振付けを実行する。少なくとも近年のポピュラー音楽の世界にはなかったものだと思う

 私が近い感覚を抱いたのは、フィギュア・スケート界では知らない者はいないロシアのエフゲニー・プルシェンコの演技だ。ヴィヴァルディの激しい弦楽奏を使ったプログラムで、彼はまるで指揮者の様に音を先回りして全ての動作を演じた。ただ録音された音源を流しているだけなのに、実際に彼が指揮しているかの様に錯覚出来て、とても感銘を受けた。
 BABYMETALの振付けは、後の『ギミチョコ!!』以降もこうした要素が不可欠になった。
『メギツネ』が端緒という訳では無いだろうが、決定的に印象づけたのはやはりこのプログラムなのだ。
 彼女達があの様に振付けをパフォーマンス出来るのは、身体的能力以上に音楽的なセンスがあるからだと思う。
 トラックを正確なリズムで脳内再生が出来ており、神バンドの演奏でビートのピークを的確に捉えるからこそ、先回りモーションが成立するのだ。



 

 私のMost Favoriteなプログラムという訳ではないのだけれど、『メギツネ』についてはまだまだ書き足りていない。
 イントロ部のビートが高まる直前、YUIMETALとMOAMETALが狐の顔をつき合せるところが妙に色っぽいだとか、「なめたらいかんぜよ」ではまたも2人はSU-METALに蹴り飛ばされるとか、後半のCメロではYUIMETALが望んで「扇風機ヘドバン」が組み込まれているだとか、論旨に組み込めなかったエピソードは尽きない。


 それにしても、改めて当初の疑問に戻ってしまう。
 何故BABYMETALの3人はこの様なパフォーマンスを可能にしたのか。
 そして、MIKIKO-METALは何故それが可能であると思ったのか。

 私には未だに結論が見出せない。



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コメント

YUIMETALとMOAMETALの身体的成長が逆に体力的負担になるのではと心配しています。
特に今回のツアーでは高地のメキシコがあるので、無事を祈るばかりです。高地順応のための準備をしっかりしてくれればいいのですが。
他では、たぶんヨーロッパほど受け入れられないであろうRock of Rangeが気掛かり。

訂正
×Rock of Range
○Rock on the Range

ここに来ると目から鱗ばっかや…
ありがとうございます。

個人的に好きな箇所は「やまとなでしくーおーんなーはー」で
YUIMOAが自分の腕をなでる振り付けですね。
この振り付けがMIKIKO先生のものなのかYUIMOAのアイデアなのか
ダジャレをこれだけ堂々と振り付けに盛り込むとはツボでした。
勝手にYUIMOAが面白がってやったものを取り入れたかもと妄想しては
楽しんでおります。

いつも楽しく拝見させていただいております。(google chromeにて開きっぱなしです。)
しっかし見方がほんと深いです。思いもしない角度からの見解に目からウロコ落ちまくりです。
BABY METALの「やってみた」系の動画も良く見ますが、確かに神バンドの演奏は半端無いのは自分も音楽やっていますので良く分かります。
しかし、あの難しい演奏をコピーしてしまう凄腕プレイヤーも存在するのもまた事実。
ところが、こと「歌ってみた」「踊ってみた」系に関しては、正直「本家には到底・・」と言うものばかり。(踊ってみた系は切れがなくみんなもっさいんですよね)
「もっとクオリティーの高い物投稿してくれよ」と思っていましたが、すぅーさんの歌の凄さは理解していましたが、どうやらYUIMOAも半端ない娘達なんですね。
KONAKA-METALさんの記事であらためて痛感しました。
そりゃー簡単に真似出来ないですわ。
神バンドより神な娘達。
カッコイイ!!

毎回、興味深い記事をありがとうございます。
すぅちゃんは、メギツネを歌う時、辛そうなのでハラハラします。キーが高いのでしょう。
海外では、和テイストのこの曲が人気あるのでセトリから外し難いんですよね。
まぁ、素人が余計な心配してたら
舐めたらいかんぜよ!って、すぅちゃんに蹴られそうですが(笑)

KONAKA-METALさんの制約から開放された文章にはいつも心踊されなが読ませてもらってます。そしてよくプライベートの文章にこれだけエネルギーを注ぎ入れられるものだといつも驚いてます。

僕はこの前放送したWOWOWのメギツネが現在一番の進化系だと思ってますが、モアメタルの気合いの入ったお囃子にしびれました。
ユイメタルもこんなにニコニコしながら踊ってたっけ?とそれも驚きましたが。

しかし氏の指摘でユイモア、ここでもスーメタルに蹴られてたのは大笑いです。

阿佐ヶ谷ロフトAのラブクラフトも面白かったですが、BABYMETALについて語り合う会もやって欲しいです。

初めまして 何時も楽しく拝見させていただいてます。
自分もソニスフィア以来のファンでまだまだ初心者ですね。
先日さくら学院の卒業ライブビューイングにいってきました、さくら学院の方こそ全くの初心者なんですが。(笑)
とにかくダンススキルの高さにびっくり、予想を遥かに上回るものでした。
とてもエンターテーメント性が高く初見でも充分楽しめました。
あのスピーディーで激しいダンスをそれも連続でユイ・モアは
小5からやってきたわけでしょう、あの二人の驚異的なスタミナはここで養われた部分も大きいんだろうなと思いました。


初めての投稿失礼します。
いつも楽しく拝見しています。

そのうちギミチョコ考もされると思いますので書き込みます。

YOUTUBEを”ホントのチョコ”で検索してみてください。某所で書き込みされていて知りました。既知の情報かもしれませんが参考まで

毎回、濃厚なテキストを堪能させて頂いております。

他の方のコメントにもありましたが、神バンドの超絶ぶりは、ちょっとメタル好きな人間ならば素人目にも明らかですが、SU、YUI、MOAの"凄さ”がどう凄いのか?という具体的なことがいまいち言語化出来ずにおりました。

ですが、こちらを拝読するうちに、「ああなるほど!そういうことか!」と想うことしきり。ますます、このBABYMETALというプロジェクトへの愛着が湧き上がって参ります。いつも面白いテキストをありがとうございます。

 変身! 確かにそうだ。だってその前に一瞬だが両手で印を結んでいる。「術」だ。
 これが昔のマンガなら、印を結んでドロンドロン!と煙が…おやこれは忍者の術の方だ…ではなくて、額に木の葉を置いてとんぼを切ると、一瞬で何かに化けてしまう、というやつだろう。

 ことSU-METALの「術」についてはこの曲のみならずギミチョコでもヘドバンでも腕一本振ることで/マジックワンドよろしくマイクスタンドを振ることで、魔法で傀儡を操るごとくに二人を文字通りきりきり舞いさせている。
 また、IDZでは伸ばした両腕と鋭い眼力を発することで、二人の闘争をやめさせ近寄せるのである。

 こうした、古典的な、歌舞伎などにも通じる所作によって「術」をかけるところが、見る楽しさのひとつになっている。

 ところで余談だが、「きつね」はいつからそう呼ばれるようになったのか?という話をしよう。
 「日本霊異記(にほんりょういき)」(講談社学術文庫のを所有)の第二話に「狐を妻(め)として子を生ましめし縁」という話がある。
 欽明天皇(伝・在位539-571)の頃、美濃の国の男が妻にする女を探していたところ野原でいい女に行きあい、妻にして子も生まれた。ところがその女は実は狐で、飼い犬に吠えられて本性を表してしまう。しかし男は「俺とお前とは子をなした間柄だ。”来つ寝よ”」と言い、女=狐も聞き入れて夜毎通った、という。
 その”来つ寝”から狐(または野干:ヤカンとも)をキツネと呼ぶようになった、というのである。
 フシギなオハナシとしてはまあそれでいいが(よかないか:笑)、常識的科学的に考えてメギツネとの間には子はできまい。そして「狐に化かされたという人間はいるが、確かに人を化かしたという狐はいない」のである(^^

 ということはつまり、人間の女がキツネを演じていたのである。
 メギツネであり、女は女優、である。
 そして私は、ころっと上手く騙されつつも女を一途に愛した男の純情、男の懐の広さをこそ、讃えたい(^^
 


主様の慧眼には感服するばかり
私もメギツネの舞は演奏より半拍早い動きでは?と考えていました
特にダンスの鬼神Yuiのキレ味は
計算された先取りとタメの動作から産み出された類い稀なもので何度見ても感嘆してしまう
体格が出来た最近は振りにアクセントがビシッと決まり本当に格好いい
間奏のサクラサクラで回転に入る部分などはあまりに見事な型に仕上がっていて何度見ても惚れ惚れしてしまう
御神楽のような伝統舞踊と同じ迫力を感じる
日本人から見て開いた口が塞がらない程のレベルですから
いわんや西欧人から見たら驚愕のダンスに映るんだろうなと思いますね

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