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2015年10月 6日 (火)

『4の歌』考 2

Son43ginal

 前項の記述で、リフの「Si,Si,SiSiSi」という音は人工的な音だとみなしていた。
 こう考えた一つの要因は、BLACK BABYMETALの二人がこの振りの時、「しーっ」というポーズはするものの、口を開いていない事にもあった(ライヴのエクステンドなイントロでは「しー」という口になっている)

 しかし前項のコメント欄で指摘があったのだが、ある映像でクリアな「Si,Si,SiSiSi」を聞く事が可能であり、その音声では紛れもなくブレス(息継ぎ)の音が聞こえる。
 その映像を私も見てはいたが、注意力が足らなかったと反省している。

 その映像とは、昨年ロンドンのフォーラムに於けるリハーサルを撮った映像であり、あまり言及をする事は憚られるものだった(リンクも前項コメント欄にある)。
「ベビメ大陸」(内容については検索されたい)は、新たなファンが見たいと望むのが自然な価値ある映像だが、リハーサル(のカメラテスト)は、どういう経緯で流出したのかは判らないが、私が認識していたのはロシアのvk(ファンのフォーラム)から拡散したという事だけだった。
 私服姿の三人の映像は、言わばデーモン閣下のすっぴん、もとい「世を忍ぶ仮の姿」を晒す様なものであり、BABYMETALが見せたいものではない筈なので、なるべく「見ないふりをする」スタンスでいた。

「Si,Si,SiSiSi」のみの音はCD音源にはなくライヴ版でしか聴かれないものだが、『4の歌』のライヴ・パフォーマンスはオフィシャルなものでもファンカムであっても、「Si,Si,SiSiSi」が始まればすかさず観客は「よんよん!」と叫ぶ決まりになっており(フォーラムですらすぐにその声が上がっていて感心する)、ブレスの音は絶対に聞こえないのだ。

 リハーサル映像流出の是非はさておき、一つ明らかになった事は事実であり、それに目を背ける訳にはいかない。
「Si,Si,SiSiSi」は、BLACK BABYMETALの二人にとってヴォーカルという認識では録らなかったかもしれない。しかし間違いなく二人が発した音が用いられているだろう。
 ブレスは完全に反復しており、一回分をサンプリングして延ばしている様だ。



 前項のコメント欄では、「合の手」の概念についての話題も上がった。
 合の手そのものが日本の古典文化に源を見出せるのかどうかについて、私は確かな見地を持たない。
 BABYMETAL楽曲に共有されている、コンセプチュアルな特色である「合の手」がどういう効果、或いは価値観をもたらしたかについて、私はこう考えている。

『4の歌』のメロディには隙間が多い。
 Aメロでは歌詞には記載されていないが、「へへーい!」という合の手が入る(殺人的だ)。
 サビでも「幸せの4 死ぬじゃない4」と歌った後、バッキングにはない8分の符割で「うんうん」と頷く仕種がある。
 この事が『4の歌』を紛れもなくロックにしているのだ。

 以前本ブログの雑話エントリで、8ビートをコードストロークしながら歌う多くの日本のロック系Jpopを、私はロックと認め難いという趣旨を書いたのもこの事に関連する。

 JPopの多くは端的に言ってメロディ・ラインが過剰であり、詰め過ぎなのだ。

 海外のロック楽曲は、「作曲」と「アレンジ」が一体で作られるのが普通だ。編曲という語を持ち出す場合は、既存曲に変化をつける場合の概念である。

 ロックであればリフが先ず有って、メロディはそのリフを牽引する、もしくは隙間を縫う。
 これによって曲としてのグルーヴが生まれる。逆に言えば、べったりメロディが続く楽曲でグルーヴを生み出す事は極めて困難である。
 JPopに限らずJRockの大多数も「こうやって作るでしょ普通」というメロディ作成法に盲従していると私には思える。ポスト・ニューミュージックだと私には聞えるのだ。

 一般受けするコード進行には自ずと限界があり(当然だ)、勢い日本のメロディ・メイカーらは転調という本来禁じ手(小手先変更と言って良い)に奔った。

 この私の指摘は極論的暴論だという自覚もあるが、40年剰りずっと抱いてきた日本の商業音楽への不満なので、如何なる反論も受け付けられない事をお断りしておく。
 まあマーティ・フリードマンなら「そこがいいんジャーン」とでも言うであろうが。

 これはロック系に限らない。R&B系、特にソウル、ファンクもそうあるべきなのだ。

 BABYMETALは、YUIMETAL+MOAMETALという二人のポジションから「合の手」を入れる事がルーティンとなっている。つまりそこではメロディに隙間を意図的に生じさせる必要があった。
 副次的に、その隙間はリフやシンコペーションとして機能する。ロックのグルーヴが生まれたのである。

 初期楽曲で最もJRockに近いであろう『イジメ、ダメ、ゼッタイ』からして、Aメロこそメロディは埋まっているが、B,Cメロには隙間があって、YUIMETAL+MOAMETALの合の手と共に、印象的なギターのキメを多種多様に聴く事が出来る。

『ド・キ・ド・キ☆モーニング』などのポップ系楽曲はこの範疇には入らないが、『ヘドバンギャー!!』『Catch Me If You Can』、そして『Road of Resistance』に至るまで、メロディに休符がある曲が圧倒的に多い。私がBABYMETALを紛れもなくロックだと感じるのはこれ故である。
 例外的なものが『メギツネ』だが、こちらは真逆にメロディが極めて微妙な上下動をしつつ、ブレス位置が少ないというエクストリームなもので、精神的にロックであると思える。
『悪夢の輪舞曲』もメロディに休符は少ないが、こちらはポリリズムのジェントなバッキングとヴォーカルが闘争する様な曲であり、ロックだとしか思えない。

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 BABYMETALが今後の音楽性を現状よりロック、メタルに振ろうとはしないだろう。それによって失うものはあまりに大きい。
 今の様なアプローチをしているからこそ、メタルの中でもスピードメタル、Nuメタル、オーセンティックなメタルと節操なく取り込む事が出来るのだ。
 あるサブジャンルのアーティストのCDで、雑多なサウンド・スタイルが入っていたら普通のリスナーは怒るのが自然だ。
 BABYMETALは鵺的なポジションを維持する事で、常に斬新な折衷をしていく事が可能なのだ。
 どこまで計画的だったかは与り知らねど、これは実に冴えたアプローチだったと感服せざるを得ない。
 偽物感はつきまとうかもしれないが、日本の現代音楽史の中で最もロックしているサウンドを獲得したとすら思う。

『4の歌』は、何の野心もない遊びの中から生まれた歌がパッケージングされた。
 隙間恐怖症の職業作家なら「1の次は2」という一小節+一拍のメロは書けないだろう。
 原形の歌がどこまで出来ていたかは判らないが、最大限、原形を尊重して作られたのだと思う。
 Aメロのシンコペーションのギターリフがグルーヴを生み出し、この楽曲を紛れもなくロックと断言出来るものにしている。

【補記】
 本稿の趣旨は、あくまでロック〈系〉楽曲を作るスタンスについてである。
 決して日本音楽業界の編曲という概念を卑下する意図は無い。アイドル歌謡曲などで作家性のあるアレンジをしていた編曲家達を敬服している。
 古くは70年代にも西城秀樹「激しい恋」という見事なブラス・ロックが作られた。

 この項つづく。


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コメント

これまでの論考でも繰り返し言及されてきた、
リズムの「食い」やシンコペーションへのこだわり、
言語的・演劇的なダンス表現を駆使して紡ぎだすグルーヴの正体。

BABYMETALが挑もうとしている、
「たったひとつの冴えたやりかた」がMETALを越えてROCKに迫る。

歌謡曲の昔から抱いていた胸のつかえが、
一つ消えた想いがするのは私だけでしょうか。

我が軍の絵師の方々が描く「鵺」の姿に期待!

4の歌の振り付けには、「5ヶの4の形」が隠れています。

http://goo.gl/F8hLUb

長年洋楽ロックマニアやってきて、
何故3人のJKにロックを感じて惹かれるのか。
自分でも良く判らずに考えずに感じていたことを解説してくれた感。
やっぱりこのブログ面白いです。

いや、なんかミステリーを読んでるような感覚に陥りました。
続きが楽しみです。

メキシコでのインタビュー
https://youtu.be/Re7QC1rcBUQ
日本の物より内容濃い。SU-METALの英語が流暢。

悪霊島の「鵺の鳴く夜は…」を思いだしました。確かにJロックはロックと認められない部分はありますが、では世界標準で作ったとて「何処かで聴いたことのある」つまらない楽曲が増えるのもまた事実。世界を意識して創作されてなかったからこそベビメタは海外で受けているのではないでしょうか。幼女にメタルを唄わせるのも海外から見れば禁じ手ですし。ベビメタの活躍でJロック創作陣も可能性を感じているでしょうし、「Japan way」は必要かと思います。
ちなみに鵺ではないですが蒲生氏郷と言われていたのは恐らく「3匹の梟」をイメージしているのではないかと思います。

>『ド・キ・ド・キ☆モーニング』などのポップ系楽曲はこの範疇には入らない

個人的にはドキモの「ドシ♭ラミ♭レドレミ♭レシ♭ラ」というリフは、BMの中でも最高にロックなリフの一つだと思っています。全体のラ(A)調にシ♭やミ♭をぶつけてくるんですから。そして歌い始めが安易なメロディーに流れることなく、はっきりとしたメロディーのないラップ調にしたというアイデアも秀逸で、BMデビューをリアルタイムで知らない自分にとっては、これがアイドルユニットのデビュー曲とは今でも信じられないくらいです。

その後、Bメロ(マイナー)やサビ(メジャー)で、1-6-4-5度の典型的なJ-POPコードになってからの、再度このリフが出てくるあたりで、完全にやられてしまいます。

キングギドラやケルベロス、メデューサ三姉妹などの三ッ首イメージから、
千変万化の合成獣キマイラまでは夢想していましたが、
「禁じ手御免」の「何でもアリ」はまさに”鵺”!
雲を起し、雨を呼ぶのも道理という訳だ。

あと三面にはダダもいましたがwww

かつてYMOが海外でライブをやったとき、「Behind The Mask」だけは
観客が「ロックンロールだ!」と熱狂的な反応になる、という話を思い出しました。
思えばあの曲もまさしくリフが骨格をなしている曲ですね。
日本人的な耳からすると「え? メロディーこれだけしかないの?」みたいな曲ですが(笑)
その後Eric ClaptonやMichel Jacksonにまでカヴァーされ、海外ではYMOの代表曲のようになってしまいました。

YOSHI-METAL様

>個人的にはドキモの「ドシ♭ラミ♭レドレミ♭レシ♭ラ」というリフは、BMの中でも最高にロックなリフの一つだと思っています。
全くもって同感です!最近はこれと似たようなのが多くなりましたが,出た当初は感動してました。

ということは、彼女達は知らず知らずのうち
にロック的なものを体得してるわけで
末恐ろしい…

細かな訂正ですが、ドキモのリフをもう一度聞き直したら、最後は「シ♭ラ」ではなく「ラシ♭」でした。歪んだ低音なので非常に違いが聴き取りにくいですが。

>IHさん
>最近はこれと似たようなのが多くなりました

BM以外のアイドルはあまり聴かないので、BMほどかっこいいリフのある他アイドルの楽曲があればぜひ教えてください。

ドキモの話ばかりでしたので、4の歌関連で一つ。

例のダンダンダダダンダダダダンというリズムのバックで、ギターが「ド#ミファ#ソ#シド#」という6連音符をリフレインしているのですが、The Forumのライブでは、この6連の代わりに「ウィ〜ン」という音がゆっくり上下に動くような音になっているのですが、気づかれた方いらっしゃいますか?

自分はこの「ウィ〜ン」の動きがなんともカッコよくて好きなのですが、私だけでしょうか。あと、これどうやって演奏しているのでしょう。

転調に関するお話に激しく同意します。個人的な感覚では20年くらい前からが一番ひどかったように感じています。ただ安易に転調を用いるだけでなく、メロディーやアレンジがパクり物だとほんと最悪でした。あぁ、具体的な曲名たちを挙げてしまいそう・・・

「Si,Si,SiSiSi」はご指摘のとおりYUIMOAで間違いなさそうですね。つい「おねだり大作戦」での、合いの手参加してるイメージを持ってしまったのですが、よくよく考えればおねだりの時のようなインタビューによる言及は一切ないですものね。

>YOSHI-METALさん
フレーズ自体は全くそのまま、フェイザーという「うねり」を生み出すエフェクターを、小神様がかけながら演奏してます。
自分は、小神様がレゲエパートを完璧なクリーントーンで演奏しているのも気に入っています(他のバージョンはクリーントーンのようで、その実、軽く歪んでいるので)。

YOSHI-METAL様

自分的にはルートの半音上下を使ったリフというニュアンスで理解しました。ベビメタのものほど複雑ではありませんが,これなんかいかかでしょうか?
https://www.youtube.com/watch?v=UUrkKOpNaVE

>WOOD-METALさん、
>フェイザーという「うねり」を生み出すエフェクター

ありがとうございます。ググると確かにフェイザーや(小中さんご指摘の)フランジャーを使うと、ジェット機みたいな音が出せるって情報が出てきますね。ギターを弾かなくなって久しいので、最近のエフェクター技術には全くついていけません(恥)

熱さ感じます。

>YOSHI-METALさん
先のコメントを書き込む前に、一応簡易的なマルチエフェクターにつないで6連フレーズを弾いて確認してみたのですが(さすがにあの早さでは無理だけどw)、フェイザーが一番あのニュアンスに近かったのでそうコメントさせてもらいました。改めて、型は古いものの、割とハイエンドのマルチとLogic Pro内蔵のギター用エフェクターで少し試行錯誤してみたのですが、やはりオリジナルと大村神が6連を担当してるライブではフランジャー、Forumの小神様はそれにプラスして(またはオンリーで)フェイザーではないかと。モジュレーション系のエフェクトは、遊びで使う程度で使いこなす程の知識も経験もないので、もし間違っていたらごめんなさい・・・

少なくとも言えるのは、6連のフレーズはそのままで、うねりによる音色変化であの「ウィ〜ン」という音になってるはずです。比較的わかりやすいと思うのは、冒頭の部分、音色変化のため音程が把握しにくいものの、そのうねりの中でも、右チャンネルのLedaによるオクターブ上のフレーズと時々完全にかぶるのが、よく聴くとわかると思います。ちがう音程を弾いているというのはあり得ません。全く曲の印象が変わってしまうはずです。

このリフが、いいねとジミーが言ったから、1月12はZep記念日。

 リフと隙間を縫う歌うギター。LED ZEPPELINを思い出しまた。
隙間をつくる合いの手とは少し違いますが、ロバートプラントはBring It on Home などでハーモニカで掛け合いをしていますね。
 (1月12日はファーストアルバム発売日。他に語呂のいい日付が見つからなかった...)

>  BABYMETALが今後の音楽性を現状よりロック、メタルに振ろうとはしないだろう。それによって失うものはあまりに大きい。
>  今の様なアプローチをしているからこそ、メタルの中でもスピードメタル、Nuメタル、オーセンティックなメタルと節操なく取り込む事が出来るのだ。
>  あるサブジャンルのアーティストのCDで、雑多なサウンド・スタイルが入っていたら普通のリスナーは怒るのが自然だ。
>  BABYMETALは鵺的なポジションを維持する事で、常に斬新な折衷をしていく事が可能なのだ。
>  どこまで計画的だったかは与り知らねど、これは実に冴えたアプローチだったと感服せざるを得ない。

同感です。

そして,これが可能なのは,BABYMETAL が「楽曲/曲調」以外の部分で identity を確立しているからだと思っています。

普通のバンド(以下そう書きますが,ソロシンガーでも同じ)は,あまり節操なく曲調を変えるとそのバンドらしさ = identity が失われてしまいます。

ボーカリストが特異な声を持っているとか,ギタリストが特殊な早弾きの名手であるとか,作詞者が特殊な世界観やリズム感を持っているとか,そういうものがあれば音楽的 identity は保てますが,そうでない場合は非音楽的な要素(メンバーの容貌や人間性等)しか identity が残らない場合もあります。

なので,楽曲の(曲調の)identity は通常のバンドにとっては非常に重要だと思います。変えるにしてもアルバム単位で「方向性」を変えるのが普通で,BABYMETALのように単一ミュージシャンの1つのアルバムの中でこんなにバラバラなのはほとんど例がないと思います。

ではなぜBABYMETALにそれが可能なのかというと,BABYMETALサイドがよく言っているようにBABYMETALは「BABYMETALというオンリーワンのジャンル」だからだと思います。

もう少し具体的に書くと,「アイドルとメタルの融合」であれば,どんな曲でもBABYMETALの identity に適うものとして受け入れられる,だからBABYMETALはさまざまなジャンル/サブジャンルを「節操なく取り込む事が出来る」のだと,私は考えています。

ただ,今は(日本では)「ラウドミュージック+Kawaii」という(もう少し広めの)エリアで,(フォロワー的なものも含め)多くのグループ/バンドが出てきているので,そこでの identity はどうなのかというと...

これはもう SU-METAL さんや BLACK BABYMETAL のお二人の歌や合いの手,KOBAMETAL氏の(メタル/ラウド・ミュージックに関する豊富な知識に基づいた)プロデュース,としか言いようがない気がします。

極論,あの3人がラウド・ミュージック風アレンジの曲を歌って踊ればBABYMETALになってしまう(特に SU-METAL / 中元すず香さんは,一聴して特徴のある声ではないのに,何を歌っても自分の歌になってしまうという特異な能力をもつ一種の怪物なので)のではないかと思います。『White Love』『翼をください』『魂のルフラン』を聴くと,その考えは殊更に強くなります。

まとめると:BABYMETALは曲調以外の音楽的 identity があるので,さまざまなジャンル/サブジャンルを取り込んだ曲を扱える

以上,私見ですが..。読んでくださった方,ありがとうございました。

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