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2016年2月12日 (金)

『Road of Resistance』考 2

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 私のBABYMETAL初体験はNHKの番組『BABYMETAL現象~世界が熱狂する理由~』だった。一部カットはあったが『Road of Resistance』も番組の最後に放送されている。音楽的には、正直に言って他の楽曲よりも印象的ではなかったのだが、何か異様な熱がステージからもオーディエンスからも立ち上がっているのは把握していた。
 その曲がアンコールとしてその場で初披露されたなどという事を知るのはずっと後になってからだった。

 翌年1月になってダウンロードが可能になった時が、本気でこの曲に向き合った瞬間だった。
 聴き始めて「おや?」と思った。この「おや?」については後半で触れる。

 最初に聴き通し終わった時の事ははっきり覚えている。
「これは否定出来ないわ」
 1人で部屋で聴いていたのだが、そうはっきり声に出したのだった。

 まだBABYMETALのこれまでの軌跡を探っている最中だ。アルバムの楽曲それぞれには好みのもの、そうでないものがまだあった。
 パワーメタルは基本的には好みの音楽ではない。理由は単純で、グルーヴが感じ難いサウンドだからだ。歌い上げるタイプのヴォーカリストが多いのも苦手だった。
『Road of Resistance』ははっきり、パワーメタル由来のメロスピ(メロディック・スピードメタル)のサウンドで作られていた。
 前提的な苦手意識を完膚無きまでに蹴散らかしたのが、SU-METALの最後のシャウト「AhAhh!」だった。
 5分20秒を疾風の様に駆け抜けるトラックだ。


 

 SEに続いて始まる序奏部、幾重にも重ねられたギター・オーケストレーションだ。極く薄く、男声チャントが白玉的に流されてはいるが、ほぼギター(+ベース)とドラムだけというソリッドなサウンドに本気さが伺える。
 そして序奏部が終わると法螺貝の音が響き合戦のサウンド・エフェクトが低いパーカッションの響きと等価で流される。
 Wall of Deathのイメージ・モデルはスコットランド対イングランドの戦争を描いた映画『ブレイブハート』である事は記したが、『Road of Resistance』では日本の戦国時代の合戦に置換されているのだ。正しくローカライズされていると言えよう。しかしやはりSEの音感的には、日本の合戦映画というよりもハンス・ジマー的である。

 ドラムのフィルでYUIMETAL+MOAMETALの「One, Two, Three, Four!」のカウントが叫ばれ、怒濤のビートが繰り出される。
 私が「おや?」と思ったのは、ここでのドラムとギターの刻みがジャストにシンクロしていないところであった。
 5小節目辺りからはシンクロするのだが、インテンポに入り始めは些かバラついている。

 BABYMETALのCD音源トラックは、概ね打ち込みで作られている事は最初に聴いた時から判っていた。
 シングル・リリースされた楽曲はそうでなくては作れない音になっていたし、それをライヴで無理矢理生バンドで演奏する事が私の様なリスナーには痛快さとして感じられていた。
 アルバムに入っている曲で後半に収録されたものは、既にBABYMETALのライヴは、骨バンド「ベイビーボーン」のアテ振りではなく、「(メタルの)神バンド」が演奏する方向性に定まっていただろう。つまり、生で演奏する事が意識されつつはあった筈だ。
 しかしそこで作られていた曲は例えば『4の歌』であったり『悪夢の輪舞曲』という、打ち込みに特化したサウンドの楽曲だった。

『Road of Resistance』は、ライヴ演目が何よりも主として作られた筈だ。
 シングルとしてリリースされる事は無く、国内ではダウンロード、海外ではボーナス・トラックという、音源販売は二の次という扱いである。
 だからとて、音源としては相当に力(と予算)が注がれ生み出されている。

 CDの売り上げよりもライヴやフェスの収益の方が大きくなっている現代の商業音楽に於いて、こうしたアプローチはBABYMETALに限らず増えていくのかもしれない。

『Road of Resistance』音源のサウンドには異様にライヴ感が横溢している。
 勿論シークェンス・トラックがまずあって、幾多のトラック、数多くのパンチインが重ねられているだろう。だとしても――、

 以前本ブログで軽く述べた事があるが、私はこの音源のドラムは生で演奏されたものだと思っている。
 冒頭インテンポに入って早々の僅かなリズムのバラツキは、もし打ち込みならば補正が出来た筈だ。しかしそのままの勢いで全曲疾走しきっている。エンディング直後のオマケのスネアには「やってやったぜ」感があまりにリアルに感じられるのだ。
 あくまで想像であり、外している可能性は大いに自覚しているが、個人的な見解として述べておく。


 メタル楽曲としてのアレンジは、様々なエッセンスを巧みに消化して生成されている。これについては発表間もない時期、BABYMETAL言説ブログの先達であるこのエントリで解析されていた。

 この楽曲の歌メロは、SU-METALにとって高すぎず低すぎず、最も楽に声を伸ばせる音域だ。
狼煙の光が
 での声の広げ絞りなど、自らの喉を自在にコントロール出来ている。
 SU-METALの限界が無い様な高域にはいつも感動させられるが、アクターズ・スクール広島時代に中元すず香が好んで歌っていたのは低いアルト域のバラードだ。
 そもそも低い音域で安定して声を出すのは高域が伸びるのと同様に難しく、これも天分の要素だ。
 カレン・カーペンターの歌をカレンの音程で、他の歌手の殆どが歌えない。中元すず香はカレンほどスウィート・スポットが低い訳では無いが、ソロシンガーになったら果てしなく可能性は広がっている。

 YUIMETALとMOAMETALはこの楽曲では合の手というより、まさにコーラスだ。
 冒頭のカウントや、SU-METALのヴォーカルを追う「Resistance♪」、間隙を縫う「Just Now Is The Time」などで、BLACK BABYMETALらしい声が聴かれる。
 ただ、音源を聴いている段階ではYUIMETAL+MOAMETALのパートがあまりに少ないという不満を抱いた。
 ポジション的には『イジメ、ダメ、ゼッタイ』の後継的な重要曲であるのに、『イジメ』での2人の存在感に満たないのは事実だ。

 しかし、後にこのプログラムのファンカムを多く見る事で全く考えが変わった。
 このプログラムの振付に於ける運動量はBABYMETALとしても最大値に近い。
 メロを歌う時はSU-METALはあまり動かないで済んでいるが、YUIMETAL+MOAMETALは曲を通じて動いているのは当然にしても、過去には無い様なムーヴメントが多いのだ。これまでとは異なる体幹の用い方が強いられるだろう。
 恐らくライヴでは、2人のパートはバックトラックが用いられているが、それも当然だろうと思う。
 振付けについてはまた稿を改める。


 音源に於ける最大の特色に、ギターソロでDragonForceの2人のギタリストがフィーチュアされている点がある。ただこれも、公式クレジットは無く、メディアでの談話で明らかとされているだけだ。

 ハーマン・リは談話で2013年頃にYouTube動画でBABYMETALを知ったという事を述べていた。早い段階でBABYMETAL側とは接触があったのではないかと思う。
 ハーマン・リは、音、そしてライヴでのプレイスタイルに極めて濃い独自性を持つミュージシャンで、『Road of Resistance』の2箇所にあるギターソロのそこかしこに、濃い刻印が施されている。
 しかしBABYMETALのトラックメイカー達は、実際のハーマンやサムを招く以前から、DragonForceのサウンドは強く意識していた筈だ。
『いいね!』の最後のコーラス直前のブレイクに弾かれるファミコンのビットチューン的なギターの高域フレーズは、ハーマンのプレイスタイルに極めて近しい。

『Road of Resistance』では、先ず1コーラス目の後に短いソロ・パートがある。ちょっとウェスタンを想起させるフレーズはDragonForceの初期アルバムで、幾つか近いものがあったが手癖に近いフレーズだと思う。
 そしてDメロ前にはこれぞ本気で演ったとしか思えない、ひたすらエクストリームにスピードとメカニカルな音階のデュオプレイが聴かれる。
 2人は出来ているオケに被せるだけでなく、ソロパートのコードも主導したのではないかと思う。

 2人のギタリストの参加は、驚くべきサプライズというよりも、そうなって然るべき運命があったかの様なコラボレーションだった。


 つづく

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コメント

私がBABYMETALを知ったのは、小中さんより更にあとになりますが、
この曲には、打ちのめされた、ライブ感に塡まってしまったという感じです。

運動量については正にその通りで、冒頭の馬に乗り鞭を振るう振り付けは「単純に身体を上下させてるステップなのかなー」となんとなく思っていましたが、足元がはっきりと写っているファンカムを見て驚愕しました。

あれ、あの速さで前後に細かくステップしてるんですよね。
ライブの終盤で体力も厳しい状況で有ることが確実であるにも関わらずあの振付。
「マジかよ!MIKIKOMETAL!」と思いました。

私もイントロのリズムの"ブレ"は気になっていたのですが、どうやらブラックメタルに使用されるブラストビートの作法らしく、ベースドラムとライドで刻まれるリズムに対してスネアが遅れて入るため、ずれたように聞こえるようです。

下記のビデオの"Traditional"という分類のようです。
https://youtu.be/jNL9ypFdAzI?t=2m06s

ドラムに詳しい方、間違ってたら是非正しい解説お願いいたします。

はじめまして。YAMAさんの仰るとおりだと思います、しかし僕はスタジオ音源は聞いたことがないのでライブでの判断です。
遅れ感をなくすにはこちらのURLのような「究極奥義」を用いらねばなりません。
グラヴィティブラスト。https://youtu.be/ir_KZNsTNiQ

ダンス考も楽しみにしています。歌はともかく、ダンスはBPM200オーバーのリズムの部分ありますからね。。あのYUIがギリギリという無茶ぶり。
RORについて、文句のつけようのないメロスピで王道よりだと思うのですが、それゆえに聞くと疲れる、リピートできない、という声もあります。ギミチョコやメギツネのような中毒性に欠ける、という感じもします。公式の視聴数が伸びない理由とされていますが、そのあたりのご意見も伺えれば嬉しいです。同じ王道でもアカツキは何度もリピートできるのに・・・と自分も思うのです。

ドラムを演奏する者として、冒頭のドラムのリズムのズレについて解説できたらと思います。

冒頭のドラムはYAMAさんのおっしゃるようにブラストビートという奏法が使われています。これは主にデスメタル等のメタルの中でも特に激しいジャンルで多く使われる奏法なのですが、同じブラストビートでも種類がいくつかあります。

まずスタジオ音源ですが、これは手足ともに16分音符を刻んでいます。その際、右手でハイハット、左でスネアを叩いており、手順は一般的に右手スタートのため必然的にスネアが裏のタイミングになり、周りのリズムとズレて聴こえるというわけです。

一方、青山神の場合は、手足ともに16分音符を刻んでいる点はスタジオ音源と同様ですが、手順が右手スタートで右手でスネア、左手でハイハットを叩いているため、周りのリズムとぴったり合って聴こえるはずです。

また、初演時の前田神の場合は、スネア・ハイハット・バスドラムを全て同時に8分音符で叩いています。そのため、スタジオ音源や青山神の場合とかなり違った印象に聴こえます。

そして、秘METAL重いさんが紹介されたグラヴィティブラストについてですが、これはスネアのリム(枠の部分)を用いて片手のみで16分音符を叩けるというまさに奥義のような特殊な技巧で、デスメタルのドラマーが使っているのをたまに目にします。ですが、RoRでは使われていません。

わかっていただけましたでしょうか?こうして同じ曲でも演奏者の違いによって色々と聴き比べができるのも、BABYMETALを聴く上での楽しみの一つですよね。

>>K5様
丁寧な解説有難うございました。解説を読んで聞き比べてみました。なるほど。
何となくいままで青山神は手数が多くてテクニカル、前田神はシンプルで力強い
といった漠然とした印象でしたが、同じ曲でも叩き方が色々あるのですね。
そして、最後の演目になることが多い曲なのにこれを叩ききるドラマーの筋力は
恐るべし。わざわざドラムの足元にカメラを設置する映像の作り方にも意図を感じます。

青山神のはいているNEWBALANCE探してるけど見つからない。

「旗芸」もさくら由来?😆

少女が旗振りっていうとローランド・エメリッヒ監督の映画「ホワイトハウス・ダウン」から来てるんじゃないかと思っています。映画は「旗振り」が伏線になってるし・・・。

小中さんの論評活動復帰、素直に嬉しいです。こういう深堀話、中年オヤジは大好きですもんね。「ベビメタロス」も深刻な昨今ですが、「試論ロス」ってのもありまして・・・。これからも御無理の無い程度で、楽曲の解説をお願いします!

再投失礼
さあさあ皆さん、セカンドアルバムに「NO RAIN NO RAINBOW」収録が発表されましたよ。
封印が解かれましたね。主様、考察されますか?

なるほど。
小中さんが「おやっ?」と思った部分ですが、私もここはもたついて聴こえて気になっていたので、K5さんの説明は腑に落ちました。
聴き比べができるというのも同感です。だから同じ曲でも飽きることなく聴けるのでしょうね。

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